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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「アー……いいお湯だ」

と、湯気の中から渡り鳥の腹を仰向いて見ていました。

板前の庖丁に甘いもからいもいえず、出るには焼き印のある下駄をはき、うちでは棒縞の丹前でお客様お客様と下にもおかれぬ不自由をしているよりは、かかる野天で、かかる湯泉に、堪能していられた時代の旅人の方が、遙かに、自然の恩恵をまことに浴したもので、また、諸国に温泉をひらいたという湯前の神様――大己貴尊の心にもかなうものでありましょう。

ところで。

月江とおりんがそこへ来て見ますと、野天風呂と網小屋の裏の間に、ばく、ばく、と勢いよく白い煙がふいていて、ちょいと寄りつかれない湯鳴りがしています。

次郎の姿はここにも見えませんでしたが、宿の丹前を着たお客の男女や、往来の者や、土地の悪太郎が寄ッてたかッて、

「法斎、法斎」

「法斎、法斎、法斎……」

「法斎きちがい! 法斎きちがい」

――なにか知らないが面白そうに騒いでいるので、思わず首を突ッ込んで、人の肩の間からのぞいて見る。

名物の馬鹿でもいるのかと思いましたら、べつだん人間をよんでいる訳ではなく、岩の間からふきだしている湯へ向って、土地の子供が、