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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

「法斎きちがい、法斎きちがい」

と、手をたたいているのでありました。

「ああ、これが、法斎湯だよ」

と、月江もおりんの耳へ口をよせてささやいている。

この湯口は、法斎きちがいと呼んで手をたたくと、自然に怒ッて湯をふき出し、それをやめると湯鳴りもしずまるのだそうで、湯治客は一度はここへ見物にきて、面白半分に、土地の子供へ手をたたかせる。

で――その湯口のそばには、江の島の鮑取りみたいに、「法斎きちがい」を商売にしている鼻ッたらしがウヨウヨ居て、湯鳴りがやむと、黒い手を出して、

「おじさん、法斎呼ぼうか」

「おばさん、法斎呼ばしておくれよ」

と、一文二文をねだッています。

「つまらない……」

おりんは、さんざん見てしまったあとで、つまらないと呟やきながら、そこを離れて月江と一緒に歩きだしました。

「あの法斎法斎ッて、お湯が怒ッてくるのは、仕掛があるんですとさお嬢様」

「まあ……そうかえ」

「あの子供たちには、才取りをする大人が居て、網小屋の中で、手の音をききながら加減をするんですッて」

「そんなことは、知らない方がいいのだよ。あれも土地の名物だと思って、ぼんやり見ていれば面白いじゃないか。