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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
一枚のうんすん加留多の札を、月江が抱きこんでいると次郎がそれを奪おうとしてゆずりません。読み手のおりんは面白がッて、キャッキャッと笑いながら口から読み札をこぼしている。
「あッ、やぶけた」
「次郎、おまえは」
「知らねえ知らねえ、お嬢様のせいだ」
「意地わる!」
「ほーら、負けたんで口惜しがッてら」
「おまえの負けよ」
「お嬢様の負けだい」
「どうして」
「どうしてでも」
「りんが証人だよ、ねえ、りんや」
「おりんさんが知ッてら、ねえ、おりんさん」
「憎らしい。ひとの口真似をして」
「憎らしい。ひとの口真似をして」
「あら」
「あら」
「ホ、ホ、ホ」
「オホ、ホ」
「猿!」
と、月江がそこらの札をかき集めて、笑いながら相手の顔へぶつけたので、次郎はクシャンと参ッてしまいましたが、座敷はいちめん加留多の落花、春の夜らしく散らかりました。
と、次の間の障子があいて、
「ごめん遊ばせ」
宿の女中の声がしています。
そんな事には気がつかないで、笑いさざめいている三人は、加留多をよせ集めると次には遊戯の趣向をかえて、座敷の中程に緋の毛氈をのべ、古雅な蒔絵の枕を置きました。
枕の上には銀の水引で蝶形の的をすえ、席をさだめて扇を持つ。