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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
もうそろそろ灯を入れなければならない。新助はザッと店を片づけて表に立ち、のれん棒を持って軒のものを外しにかかる。
夕方の風が砂と落葉をまいてゆきます。
と――その時、
「ちょっと、お伺いしてみますが……」と、いかにもオズオズした様子で、店口へ寄ってきた女を、新助は見ると共に、
「あ」
来たナ、と思わず笑つぼに入るのを隠し、あわてて外しかけたのれんを戻すと上へ駆けあがって、膝を四角く、
「さア、どうぞお掛け下さいまして」
一刻あまり疑いつかれていた娘の姿を、まともから見上げて、紫の頭巾につつまれたその際だった目鼻立ちの美しさに、また瞠目を新たにしました。
「何か、お髪物の、お好みでも?」
「いいえ」
娘は往来の人足がとだえるのを待って、
「あの、売物なんですが」
「え?」
「買って下さいませんでしょうか」
どうやら話はあべこべです。
娘の品や身なりから推しても、てッきり、紋くずしの平打とかばら斑の櫛のあつらえとかいうに相違ないと合点したところが、何か使い古しの細工物でも金に代えたいらしい口ぶりで、
「どうでしょうか」
紅絹裏のたもとから、ソッと、小さく袱紗に包んだ品を膝の上へ移しかける。