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えどさんごくし

江戸三国志

吉川 英治

「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页

青空文庫

そして、それまでは、尾州家へ帰ることもできないし、万太郎の前に姿を見せることもならない彼です。――この道をどこへ向ってゆく気かと問われれば、出目洞白の仮面のある所へ――と答えるほかありません。

すると……

どこからか自分を追い慕って来るような声が、

「相良さアん――相良さん――」

と、木魂にひびいて、沢の真下に聞こえて来ました。

耳のせいかと疑ぐりましたが、その声が、だんだん近くなって来たので、足を止めて山の中腹に待っていますと、すぐそこへ、髪を乱したままのお粂の影が見えたので、

「おッ! お前は」

と驚きながら、金吾は何思ったか、ことばもかけずバラバラと山の背へ馳け上ろうとする。

「ひどい人!」

お粂は追いつくと共に、男の袖をつかんで、

「待ってくれたッていいじゃありませんか、いくら呼んでも、振り向きもしないで」

怨みがましくいって、波うつ息を喘いでいる。

と――身をへだてて金吾は鋭く、

「何しに拙者を追って来たッ」

と、邪慳に睨み返しました。

「えッ? ……」

お粂はハタかれたように、目を見張りましたが、自分の聞き違いかと思い直して、

「一緒に逃げてくれるつもりなんでしょう。