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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
さらにもつるる鉦と笛とが面白そうな諧調を作り出します。
「や? ……」
仰げば、そこは盆のくぼのような低地、一面の灌木におおわれて、自分の居所も、皆目見当もつきません。
ザワザワとその茂りを分けて、上へ上がッて見ると、夜は深沈たる武蔵野の渺茫です。
見えました。
まさに、そこから二、三丁先の草原に。
火を焚いている一群の人影が黒く。
笛、太鼓、鉦、
そこで節面白く神楽囃子をやっているのが、この深夜といい、平野の場所がらといい、何とも怪異で、あるいは、静夜の星光に浮かれて遊ぶ変化の群かとも見えたのです――
「はてな?」
万太郎は早足になって、
「将軍家の逝去、ために、天下は、鳴物停止のこと、いかに草深い所の百姓でも、知らぬはずはあるまいに、あの人もなげな神楽囃子は? ――」
と、好奇に駆られて、急ぎました。
近づいて、物蔭へ、ソッと身を伏せてうかがいますに、黒い人数は六、七人、枯木や枯草をパチパチ燃して、それへ酒とおぼしき湯沸しをかけ、茶碗を廻して野天の酒宴。
「オイ、もう一つ稽古をつけてくれ」
と、中のひとりが立っています。
「何をやろうか」
「湯立の舞」
「おっと、合点」