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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
「報知新聞」報知社、1927(昭和2)年10月~終号未詳
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 页
ことばと一緒に、また野趣のある諸※(二の字点、1-2-22)の楽器が、一だん調子をそろえて囃しました。
踊る、踊る、踊る。
湯立の仮面をつけたひとりの男が、笹を持って踊りぬきます。
その踊りと囃子を見ていますと、この人どもは心から、「あな面白や」と浮かれきって、ちょうど平安朝の頃の民が、自由民楽時代の土俗のように、世間かけかまいなく欲する遊戯に陶酔している風に思われる。
「うまい!」
と、囃子の者が、合の手の代りに、賞めました。
踊っている男は図に乗って、
「どうだ、どうだ」
「やんや、やんや」
「うまかろうが」
「さすがに、ちっとも忘れていないな」
「根が器用な生れつきでござる」
「されば」
と、狂言ことばで、笛吹の男がすぐに相槌を打つ。
「根が器用でござれば、神楽ばかりでなく、盗人の方も、都で聞こえを取りました」
「やい!」
と、踊っていた男は、いきなり仮面を取って、
「お調子に乗って、つまらねえ冗談をいうのは止せッ」
と、ムキになって怒り出した様子。
やッと、――万太郎は仰天しました。
仮面を取ったその顔は、確か、いつか釘勘と共に、石神堂で取逃がした曲者に違いありません。