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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

七

七

「かくさずに言って下さい。相馬弓子という女性は、掏摸なのでしょう。このノートは空想はまじっていない筈ですね」

と、司法主任は、おだやかな口調で再びそうきいた。

小田はもはや、答えないわけにはいかなかった。

「そうです、掏摸です」

「このノートによると、弓子はあなたと梶鶴雄と一緒に高台寺の方を散歩していたが、途中で一人さきに帰っていますね」

「ええ」

やっぱりノートを見せるべきではなかったと小田は思った。

「弓子は小郷に恨みを抱いているんですね。姉の千枝子を小郷にひどい目に合わされたその恨みですね」

司法主任は小田の創作ノートを覗きながら言った。

「さア、どうでしょうか。恨みというほどでもないんでしょう。それにこのあたりは少し脚色していますから」

と、小田は極力弓子をかばおうとしたが、司法主任は、

「とにかく相馬弓子を調べることにしましょう」

そして、半時間もたたぬうちに弓子は小野屋旅館から拘引されて来た。

司法主任は小田に、

「あなたは一応お引取り下さいませんか。どうも御苦労でした」

「そうですか。じゃ、用事があれば、いつでも来ますから……」

小田はひとまず宿へ帰った。