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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
九
と、聴き覚えのある司法主任の声だったが、何かいつもより晴々として、明るかった。
「――わざわざお呼び立てして、実は小郷事件が遂に解決しましたので、一寸お知らせしようと思って……」
「ほう……? それやわざわざどうも……。で、犯人は……?」
と、小田は固唾をのんだ。
電話の横に鏡があった。その鏡に小田の顔が写っていた。小田の顔は緊張のあまり稍青ざめていた。
「犯人は誰だと思います?」
「まさか、君勇じゃないでしょうね」
小田は、もし犯人が君勇だったら、新聞の記事通りだから、わざわざ電話が掛って来る筈はないと咄嗟に思った。
「ええ、君勇じゃないんです」
「梶君ではむろん、ないでしょう」
かつはほっとし、かつは一寸心配しながら、小田は言った。
「もちろんです」
「相馬弓子は……?」
「ああ、あの女摸掏。あなたのノートの通りです」
「じゃ、一体誰なんです」
「君勇の旦那です」
「えっ……? 一寸待って下さいよ」
と、小田は咄嗟に考えた。
「――君勇の旦那というと、小郷じゃないですか。小郷が小郷を殺すというのは、こりゃおかしいですよ」
「あはは……」
と、司法主任の笑い声が受話機を通して聴えて来た。