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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
七
「ああ、あの本……? 掏摸だって『赤と黒』を読むわ」
弓子は古綿を千切って捨てるように、言った。
「しかし、ただの読み方じゃない。あんたは『赤と黒』に心酔してるんだろう?」
「まア、そうね」
「僕だってそうだ。僕はスタンダールは世界で一番えらい作家だと思っているが、しかし、あんたは僕以上に『赤と黒』が好きだろう。その証拠に……」
鶴雄はちょっと口籠って、
「――これは僕の憶測で、当っているかどうか知らないが、あんたは赤と黒の二色しか身につけないらしい」
赤いブラウスに黒ズボン、それに部屋に掛った着物も、赤と黒の縞柄であった。それを、色町に育っただけあって、さすがに鶴雄は素早く観察していたのだ。
「鋭いわね。あなたは……」
それには答えず、
「とにかく、あんたはただの掏摸じゃない。つまり、よくよく金のいる事情があって、僕の金を掏ったんだろう。その、よくよくの事情に敬意を表して、僕はその百円をあんたに進呈しようといっているわけだ」
七
「あなたも随分空想家ね」
と、弓子は笑いながら、
「――よくよくの事情……? あはは……そんなものないわよ。あたしはただスリルを求めているだけ。