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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

こんなことでもちゃんと書こうと思うんだ」

そこへ、品の良い美貌の青年がココアを運んで来た。

小田はそのボーイが行ってしまうと、ふと声を低めて、

「――今のあのボーイさんね、ありゃ君、一風変った青年でね、あの人の親父さんというのは九州の大実業家なんだが、母親が違うので、家を飛び出して、京都へ来て放浪していたんだよ」

そこまで云ってから、小田はココアをすすり、そして不精のせいか耳がかくれるくらいぼうぼうと伸ばしている長髪を、クシャクシャと掻きながら、

「――放浪していたんだよ。そして、毎日この喫茶店へやって来て、一時間も二時間も頬杖をついて、ぼんやり寂しそうに窓の外を眺めているんだね。ここのマダムが気になって、あんた一体どうしたのってきくと、何もすることがないし、また、する興味もないので、こうして、ぶらぶらしてるんだというわけだね」

「ふーん」

鶴雄はふと興味を感じた。

「若いのにそんなことでどうするの、いくらお家にお金があるからって、働かないでいるっていうのはいけないわ――とマダムが言うと、だって、僕は何にも出来ないんだ。――じゃ、退屈で困るでしょう。――うん。