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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

小郷は反省とか自制とか潔癖とかいうものが、まるで欠けた男だったから、君勇を見れば君勇を、鈴子を見れば鈴子を、弓子を見れば弓子をと、次々と食指が移っていたのだ。だからおかしいくらい弓子の機嫌を取っていた。

「大分、発展される様ですのね」

弓子はわれながら、いやな言い方だと思いながら、皮肉ってみた。

「あはは……。なに、これも一種の慈善事業じゃ。わしのような者がこうやって新円をまいてやらんことには、先斗町も祇園も立ち行かんからな。あはは……。しかし金は使っても、品行は方正じゃ。いや実はわしは芸者はきらいでな、第一センスとかいう奴がない。その点あんたのような教養のある近代女性とは何といっても話が合う。今後大いに……、そのウ、何じゃ、わしの方も大いに援助するし、あんたの方も、いろいろ……京洛日報の社長はよく知っとるから……」

何だか、判ったような、判らぬような、遠まわしの言い方だった。

「芸者はおきらいですの……?」

「うん」

「じゃ、ヤトナは……?」

「ヤトナなんて問題にならん」

「あたしの姉さんヤトナですの」

弓子はいきなり言った。

九

小郷はふと変な顔をした。

が、まさか、木屋町の女――千枝子が弓子の姉だとは、咄嗟に気がつかなかった。