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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

「…………」

「どうして、泊ったりなんかしたの……?」

「…………」

「その男の方好きなの……?」

「ううん……」

千枝子は、ふと小郷虎吉の脂切った顔を想い出した。

「弓ちゃん、きいてくれる……?」

そして、千枝子は昨夜のことを語り出した。

四条通りを円山の方へ折れて行った。

南座には「文楽」が掛っていた。「文楽の女って、皆哀しい女ばかりだけど、姉さんも哀しい女になってしまったのね」

東山では「悲願戦災者救援同盟」の慈善鍋が出ていた。

「悲願!」

と、弓子は呟くと、豹のように眼を光らせた。

再び木屋町通りまで引き返して、そこで千枝子に別れると、弓子はその足で西田町の叔父の家に帰り、荷物を纒めた。

そして木屋町三条を上った小野屋旅館に投宿すると、すぐ京極の雑閙へまぎれ込んで行き、男の懐中をねらった。

宿賃を稼ぐためもあるが、第一の目的は、姉を苦界から救う金を作るためであった。……

と、こんな風に詳しくは、さすがに弓子は鶴雄の前では云えなかったが、とにかく話のあらましだけは語った。

「つまり生意気なようだけど、悲願なの」

「なるほど、ただの掏摸じゃなかったわけだね。