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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
小野屋旅館の番頭か女中に、高飛車な調子で掛けているその女は、三十四五の渋い藍大島に派手な臙脂の帯の対照がよく似合っている、すらりとした女であった。
上流に育ったらしい気品のある顔立ちだが、どこか濃艶な色っぽさがあり、十代に輝いたであろうこの女の新鮮な美しさが、今三十代になって再び成熟し切った美しさにしたたっているかのようであった。
鶴雄はその女の横顔をちらと見て、それからまた「アメリカとは何ぞや」のあとがきを読みだした。
「……原著者シーグフリードはフランス有数の経済学者である。一八七五年生れであるから、今年――もしまだ生きているとすると――八十二歳になる」
そこまで読んで、鶴雄はおやっと思った。
数学に敏感な鶴雄は、一八七五年生れだとすれば、ことし七十二歳の筈だがと、直感的に暗算してしまった。しかるに、訳者の山吹正彦教授は八十二歳だと、書いているのだ。
「山吹さん、間違ったかな」
鶴雄はにやりとした。
丁度その時電話を掛けていた女は、ふと鶴雄の方を向いて、少女のような鶴雄の顔にえくぼが泛んでいるのを見ると、思わず燃えるような視線になったが、やがて電話口へ相手が出て来ると、あわてて視線を戻して、