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それでもわたしはいく
それでも私は行く
織田 作之助
「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页
十一
幹男はひきつったような顔で、ぽかんと突っ立っていたが、やがて、どっかとお雪の傍へ坐ると、
「なんぜ泣くねン……?」
「…………」
「一体どないしたんや」
「…………」
「言うてみイ」
お雪はきっと涙にぬれた顔をあげて、
「坊ちゃま。あのウ、若奥様が……」
若奥様とは宮子のことだ。幹男には伯母に当る。
「伯母さんがどないしたんや……」
幹男は不安そうにきいた。
十一
「若奥様が何もかも……」
お雪はおろおろと答えた。
「何もかも……どないしたんや」
幹男はじれったそうにきいた。
「何もかも勘づいておしまいどした」
「え……?」
「今さっき、お前妊娠しているのと違うか――ちゅうておききどした」
「叔母さんが……」
お雪はうなずいた。
幹男は血の色が自分の顔から引いて行くのを、意識した。
「うちもうここに居られしめへん。どないしたら、よろしおすやろ……?」
「さア、どないしたらええやろ」
幹男はいかにも途方に暮れたというような精のない声で、ぽそんと言った。
本当にどうしていいか、判らなかったのだ。
ただはっきりしていることは、自分が女中のお雪にはらませたこと、十七歳の自分がやがて父親になろうとしていること、しかもそれを叔母の宮子に勘づかれたらしいこと……これらの生なましい事実だけだった。