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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

話をきいて、鈴子はびっくりした。

「いやどす、いやどす、かんにんどす!」

鈴子は思わずキンキンした声で叫んだ。

その声は鶴雄の部屋まで聴えた。

鶴雄は、鈴子が自分の家の二階へ小郷に呼ばれて来た時、何かふと嫉妬に近い気持に悩まされながらじっと挑み掛るような眼で、天井を見つめていた。

が、やがて昼間「そろばん屋」から買うて来た(――といっては嘘になる、実は見知らぬ女からその本代を恵まれた)シーグフリードの「アメリカとは何ぞや」を読み出したが、冷静を欠いた頭では、流暢な山吹教授の訳文もすらすらと読み通せなかった。

鶴雄はその本を放うり出すと、読みさしのドストエフスキイの「罪と罰」を机の上から取って、主人公のラスコリニコフが高利貸の老婆を殺す場面から、読んで行った。

この方は、すぐ小説の中にはいって行けた。というより主人公の心理に異常な興味を感じて、まるで活字を嘗めんばかりに夢中になれた。

ラスコリニコフとは何か。

頭脳優秀な大学生、しかし極度に貧乏で苦学している。

彼の妹は、兄の学資を貢ぐために、好色漢の餌食になろうとしている。

彼はかつは妹を救うために、かつは生活苦からのがれるために、高利貸の老婆を殺して、金を奪おうと決心する。