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それでもわたしはいく

それでも私は行く

織田 作之助

「京都日日新聞」1946(昭和21)年4月25日~7月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,708 字 · 181 页

青空文庫

その高利貸の老婆は、ラスコリニコフの意見では、もはや生きている必要のない虫けらの如き存在である。

ラスコリニコフはこう考える。

「人間には二つの種類がある。天才と、そして虫けらである。天才はもはや人間以上であり、虫けらは人間以下である。天才は彼が生きて行くためには、多数の虫けらを犠牲にしても構わないのだ」

ラスコリニコフは自分を天才に擬している。だから、自分が生きて行くためには、虫けらの如き高利貸の老婆を殺してもいいと思う。

彼はこの思想を実践するために遂に老婆を殺してしまう……。

ドストエフスキイのこの小説が発表されて間もなく、同じような事件が起った。

つまり、生活苦の大学生が殺人を起したのだ。

作者のドストエフスキイはその事件をきいて異様に昂奮したという。

「それ見ろ! ラスコリニコフが現われた!」

鶴雄はラスコリニコフの心理が自分なりに判るような気がして憑かれたように読んでいた。

もっとも、鶴雄自身は貧乏ではなかった。が、彼は「渇しても盗泉の水を飲まぬ」如く、もはや餓えてもお茶屋の飯をくうまいと思っていた。

それほど、自分の家の商売がいやだった。