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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「いや、ちとな、その腫物ができたので」

と、誤魔化したが、

「わははは」

と、皆笑いくずれ、

「旅土産は、腫物でござったか」

「できものに閉じ蓋」

「頭かくして尻かくさず」

「論より証拠」

「犬も歩けば――」

などと駄洒落をいって、誰も藤次のいいわけを真に受けないのである。

その晩は、酒の興で済んだが、次の日になるとこの同勢が、ゆうべとは打って変って、旅舎のすぐ裏の浜辺に出て、天下の大事でも議すように、

「怪しからん沙汰だ」

と、肩を昂げ、唾をとばし、肱を突っ張って、小松の生えている砂地に円く坐っていた。

「――だが慥かか、その話は」

「この耳で、おれが聞いたのだ、おれが嘘をいうと思うのか」

「まあ、そう怒るな、怒ってみたところで仕方がない」

「仕方がないで黙過することはできん。いやしくも天下の兵法所をもって任じる吉岡道場の名折れだ、断じて、これを捨ておくことはできないぞ」

「しからば、どうするのだ」

「これからでも遅くあるまい。その小猿を連れて歩いている前髪の武者修行を捜し出す! どんなことをしても捜し出す! そして、彼奴の髷をちょん切って、祇園藤次ずれの恥辱じゃない、吉岡道場の存在を厳かにする。