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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

八

誰かに向って謝っているように、虚無僧は頭を下げて、さらにまた下げて、

「おれはいい、おれは、それでも、いいとしよう。――こうして懺悔の中に、なお許してくれる自然のふところに生きて行かれるから」

と、ふと涙をこぼし、

「――だが、済まないのは、わが子に対してだ。おれのした結果は、おれに酬うより、あの城太郎のほうへより多く祟っている。とにかく、姫路の池田侯に藩臣としてこのおれが歴乎としていれば、あの子だって、千石侍の一人息子だ。それが今では、故郷を離れ、父を離れ……。イヤそれよりも、あの城太郎が成人して、この父が、四十だいになってから、女のことで藩地から放逐されたなどと知る日が来たら、おれはどうしよう。おれは子に会わす顔がない」

――しばらくは、両手で顔をおおっていたが、やがて何思ったか、炉のそばを立つと、

「やめよう、また愚痴が出て来おった。……おお月が出たな、野へ出て、思うさま流して来ようか。そうだ、愚痴と煩悩を野へ捨てて来よう」

尺八を持って、彼は外へ出て行った。

八

妙な虚無僧である。よろよろ立ってゆく時、物蔭から又八が見ていると、その痩せこけた鼻下にはうすいどじょう髭が生えていたように思う。