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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

孤行八寒

一

場所、洛北蓮台寺野

日時、正月九日卯の下刻

右神文にかけて誓約候事

万一、相手方の者、違えあるに於ては、世間へ向ってわらい申す可、当方に違えある時は、即ち、神罰をうくるものなり

慶長九年除夜

平安 吉岡拳法二代清十郎

作州牢人宮本武蔵殿

「ム、よかろう」

初めて肚がすわったのであろう、清十郎は大きくうなずいた。

その高札を小脇に持って、植田良平は、二、三の者を後に連れ宵の大晦日を、五条大橋のほうへ、大股に歩いて行った。

孤行八寒

一

吉田山の下である。ここらの横には小扶持を取って、生涯変哲もなく暮している公卿侍の住居が多かった。

ちまちました屋造りや、素朴な小門などが、外から見てもすぐそれと分るほど極めて保守的な階級色を持って、ただ無事に並んでいた。

武蔵は、

(ここでもない。ここでも……)

と次から次の家の門札の名を見てゆきながら、

(もう住んでいないのかもしれぬ?)

と、捜す力を失ったように佇んでしまった。

父の無二斎が死んだ時に会ったきりの叔母であるから、彼の記憶は少年の頃の遠いうろ覚えにすぎなかった。――でも、姉のお吟のほかに血縁といえば、その叔母ぐらいな者しかないので、きのうこの京都へ足を入れると、ふと思い出して訪ねてみたのである。