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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

三

だが、この年の晩春、あの大和柳生の庄を驀しぐらに去ってから――今日までのおよそ半年の間を、決して、無駄には送っていなかったと、武蔵は光陰に対して恥なく思った。

あれから伊賀へ出、近江路へ下り、美濃、尾州と歩いてここへ来たのであるが、行く先々の城下や山沢に彼は剣の真理を血まなこで捜した。

(何が極意か?)

ようやく彼もそこへ突き当って来たのである。しかし、

(これが剣の真理だ)

というようなものは、決して町にも山沢にも埋れていなかった。この半年、各地で出会った兵法者は幾十人か知れなかったし、その中には、聞えた達人も幾名かあったが、要するにそれは皆、技の上手であり、刀づかいに巧者な大家ばかりだった。

三

会い難いものは人である。この世は人間が殖えすぎているくらいなものだが、ほんとの人らしい人には実に会い難い。

武蔵は世間を歩いて痛感するのだった。そういう嘆きをもつたびに、彼の胸には沢庵が思い出された。――あの人間らしい人間を。

(会い難い人におれはかつて出会っているのだ、めぐまれた者といわなければならない、そして、その機縁を無にしてはならない)

彼のことを思うと、武蔵は今でも両手の腕くびから五体がずきずきと痛んで来る。