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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

七

当然、馬の尻がおどる時は、彼のお尻も馬の背を離れて高くおどるので、その危険極まることは、乗っている彼よりも、それを見送った村や立場の人たちの方が遥かに胆を寒くした。

乗る術を知らない彼であるから降りる術ももとより知らないし、駒足を止めることなどは、なおさら思いもよらない。

「――あぶないよッ、あぶないよッ、あぶないッ」

かねてからお通にせがんで、いちど馬に乗ってみたい、馬に乗って思うさま飛んでみたいと、駄々をこねて宿望にしていた城太郎も、今日はすっかりたんのうしたことであろう。声はだんだん半泣きになって来て、呪文のききめも頼みなく見えて来た。

七

もう街道には往来の者がぼつぼつ通りはじめていたのである。誰か身を挺して、この盲滅法に走ってゆく馬と乗手を食い止めてやればよいのに、誰もいらざることに手を出して怪我でもしてはというように、

「なんだい、あれは?」

と、見送ったり、

「阿呆ッ」

と道ばたへかわして、城太郎のうしろへ、叱言を浴びせたりするものしかなかった。

またたく間に三雲村、夏身の立場。

斗雲に乗った孫悟空ならば、小手をかざして、そのあたりから見渡せる伊賀甲賀の峰々谷々の朝げしきを俯瞰し、布引の山や、横田川の絶景を賞しながら、はるか行く手にはまた、一面の鏡か、一朶の紫雲かとまごう琵琶の湖を見出していたろ