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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
六
――石曳き唄は、遠くなっていた。お城は暮靄にかすんで来た。いつのまにかもう黄昏れかけて、伏見の町には早い灯りがポツポツ戦ぎだしている。
「そうだ……何かこの中に」
又八は、死者の腰に結びつけている武者修行風呂敷をそっと触ってみた。――生国、骨肉などの身許も、この中を見ればわかるにちがいない。
(故郷の土へ、遺物を届けてくれというのだろう)
そう彼は判断した。
包みと印籠を、死者の体から取って、自分の懐中へ入れた。――そして髪の毛でもと思って、一握り切ろうとしたが、死者の顔をのぞいて、ぞっとしてしまった。
――跫音が聞えた。
石の蔭から見ると、奉行配下の侍たちだ。又八は、死骸から無断で取った品物が自分の懐中にあると思うと、自分の危険を感じて、そこにいたたまらなくなった。――背を屈めて、石の蔭から蔭へと、野鼠のように逃げて行った。
六
夕ぐれの風はもう秋だった。糸瓜は大きくなっている。その下で、盥の湯に浴かっている駄菓子屋の女房が、家の中の物音に、戸板の蔭から白い肌を出していった。
「誰だえ。又八さんかい?」
又八はこの家の同居人だった。
今、あたふたと帰って来ると、戸棚を掻廻して、一枚の単衣と一腰の刀を出し、姿をかえると、手拭で頬冠りして、またすぐ草履を穿こうとしていた。