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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

九

私はまだ、初春を迎えて、やっと二十歳を一つ越すんです。そんなに年を老って見えますか」

「でも、誰かがいいましたよ」

お通は、氏富が話した世間の噂を思い出して、ふとまた腹が立った。けれど、世間のすべてがどういおうと、自分を信じてくれる者は一人でいい、あの人さえ信じてくれたらそれでいいと思う。

「ひどいや! ひどいや! お通さんは」

先へ行ったと思った城太郎が、その時、後ろのほうから駈けて来て、

「人を待たせておいて、黙って先へ行ってしまうなんて。ひどいじゃないか」

と、口を尖らす。

「だっていないんだもの」

「いなかったら、捜してくれる親切ぐらいあってもいいだろう。おれは、鳥羽街道のほうへ、武蔵様に似た人が行ったので、オヤッと思って、見に行ったんだ」

「えっ、武蔵様に似た人?」

「ところが、人違いさ、――並木まで出て、後ろ姿を見ると、遠方からでも分るほどな跛行と来ていやがる。……がっかりしちまッた」

九

こう二人が旅を歩いていれば、城太郎が今舐めたような苦い幻滅は、毎日経験することであって、ふと摺れちがう袂にも、もしや? と思い、後ろ姿が似ていると見ては前へ駈け抜けて振返り、町の二階家にチラと見た人影にも、先に出た渡舟のうちに見える似た人などにも――馬の上、駕の中の人間、およそすこしでも武蔵の姿をどこかで想わせる者を見れ