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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
二
「謝る」
「謝るとだけでことは納まらん」
「じゃあ、どうしたらいいんだ」
「かやせ」
「返せたって、もう腹の中に入って、おれの今日の生命のつなぎになっているものをどうしようもねえ」
「わしとて、生きて行かねばならん者だ。一日尺八をふいて、人の門辺に立っても、ようよう貰うところは、一炊ぎの米と濁酒の一合の代が関の山じゃ。……そ、それを無断であかの他人のおのれらに食われて堪ろうか。かやせ! かやせ!」
餓鬼の声である。どじょう髭の虚無僧は、飢えている顔に青すじを立て威猛高に喚いた。
二
「さもしいことをいうな」と又八は蔑んで――
「多寡が鍋底の雑炊飯や、一合に足らぬ濁り酒のことで、青筋を立てるほどのことはあるまいが」
虚無僧は執こく憤って、
「ばかをいえ、残り飯でも、この身にとれば一日の糧だ、一日の生命だ。かやせっ、かやさなければ――」
「どうするって」
「うぬっ」
又八の腕くびを掴まえ、
「ただはおかぬっ」
「ふざけるなっ」
振り離して、又八は、虚無僧の襟がみを掴み寄せた。
飢えた野良猫にひとしい虚無僧の細っこい骨ぐみだった。叩きつけて、一振りに、ぎゅうといわせてやろうとしたが、襟がみをつかまれながら、又八の喉輪へつかみかかって来た虚無僧の力には、案外な粘りがある。