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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
十二
庚申塚の碑の裏から、枯れ草を踏みわけて来る人の大小の鞘が濡れて見えた。
十二
それは柘植三之丞であった。
さっき、あのまま坂の上へ登って行ったものとのみ思っていたのにふいに――また、往来でもないところから出て来たのである。お通にも城太郎にも、不思議な行動に見えた。
それに馴々しく、お通さんなどと呼びかけるのも、変な男だ。城太郎は、すぐ突っかかって、
「おじさん、嘘いったね」
「なぜ」
「武蔵様がこの坂下で、刀をさげて待っているなんていって、どこに武蔵様がいるかい、嘘じゃないか」
「ばか」
三之丞は、叱って、
「その嘘のために、おまえの連れのお通さんは、あの三名から遁れたのではないか。理窟をこねる奴がどこにある、またおれに対しても、一言、礼ぐらいは申すのがほんとうではないか」
「じゃあ、あれは、おじさんがあの三人を計略に乗せるためにいったでたらめかい」
「知れたこと」
「なアんだ、だからおらもいわないことじゃないのに――」
と、お通へ向って、
「やっぱり、でたらめだとさ」
聞いてみれば城太郎へわがままに怒ったのはいいとしても、あかの他人の柘植三之丞へ怨み顔する理由は毛頭ないので、お通は幾重にも膝を折って、助けてもらった好意を感謝した。