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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
五
「おあがり」
と、筵の上へ直かに置く。
「そうか……」
宍戸梅軒は、ふた息も間を措いてから、独り語のように頷いて、
「さ、熱くなった」
と、武蔵の杯へ酌ぎ、唐突にこうたずねた。
「じゃあおめえは、たけぞうが幼名だったのか」
「そうです」
「十七歳頃にも、そう呼んでいたか」
「はい」
「十七の時に、おめえ、又八という男と、関ヶ原の戦へ出やしなかったか?」
武蔵は、ちょっと驚いて、
「御主人には、ようご存じでございますな」
五
「――知っているさ、おれも関ヶ原では働いた人間だ」
そう聞いてから、武蔵も親しみを覚え、梅軒も急に態度を変え、
「どこかで見たように思っていたが、じゃあ、戦場で会っているんだ」
と、いった。
「すると、御主人には、やはり浮田家の陣所に」
「おれはその頃、江州野洲川にいて、野洲川郷士の一まきと、御陣借をして合戦の先手になっていたのさ」
「そうですか、じゃあ、顔ぐらいは合せていたでしょう」
「おめえの連れの又八はどうしたい?」
「その後、会いません」
「その後とは、どこからのその後? ……」
「合戦の後、しばらく伊吹のある家に匿まわれて、傷の療治をしていましたが、その家で別れて以来のことです」