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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
九
槍で、それを剥くった男が、
「あっ……失せたっ」
狼狽の眼を、急に、あたりへ配ると、梅軒は、顔のまえで強くカラカラ廻っている風車に、初めて気づいて、
「どこかの戸が開いているぞ」
と、土間へ飛び降りた。
しまった――という声が、すぐもう一人の男の口から走っていた。その仕事場から土間づたいに裏の台所へ通じている露地出入りの戸が一枚――三尺ほど開け放しになっている。
月夜のように、戸外は霜が冴えていた。風車の急な旋舞は、そこから吹き込んで来る針のように身を刺す風だった。
「野郎、ここからだ」
「戸外の者は、何していたのか――戸外の者は」
梅軒は、あわてて、
「やいっ、やいっ」
呶鳴って、家の外を見まわすと、軒下や、そこらの物蔭に、黒い影が、のろりと膝でうごいて、
「……親方……親方うまく行きやしたか」
と、声を密ませる。
腹立たしげに、
「何をいッてやがるんだ、てめえ達は、なんのために、そこで眼を光らせていたんだ。野郎はもう、風を食らって、ここから外へ突っ走ッてしまった」
「えっ、逃げたって? ……いつの間に」
「人に訊く奴があるか」
「はてな」
「どじめッ」
梅軒は、そこの戸口を、踏み出したり、中へ戻ったり、じりじりしていたが、