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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
十
「だめだ、親方」
「惜しいことをした」
なぐさめ顔にいうと、梅軒は、
「しかたがねえ」
忌々しさの遣り場を見つけるように、そこの榾をつかんで、膝がしらでポキポキ折り、
「女房、酒はねえか、酒でも出せ」
炉の残り火を掻き立てて、自暴に薪を投げこんだ。
十
この夜半の騒々しさに、乳呑児も眼をさまして泣きぬいている。梅軒の女房がそこから寝たままで、酒はもうないと答えると、一人の男が、それなら自宅にあるのを取って来ようといって戸外へ出て行った。
皆、近所に住んでいるらしいのである。酒の来るのも早かった。暖める遑もなくそれを茶碗で酌み交わして、
「どうも、業腹でならねえ」
とか、
「忌々しい若造だぞ」
とか、
「命冥加な野郎だ」
などと、後のまつりに過ぎない繰り言を肴にして、
「親方、腹をすえておくんなさい、戸外を見張っていた奴がどじだったんで」
と、彼を酔わせて、先へ寝かすことにみな努めた。
「おれも悪かった」
梅軒は、そう他を咎めようとはしない。ただ酒は舌に苦い顔つきで――
「何も、あんな青二才一匹、皆の手を借りて大げさな構え立てをしなくても、おれ一人でやればよかったかも知れねえのだ。