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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
冬かげろう
一
汗でビショ濡れになっている体は頂上の大地へ慥乎と貼りついていて、山の性と、人間の性とが、この黎明の大自然の間に、荘厳なる生殖をいとなんでいるかのように、彼はふしぎな恍惚に打たれていつまでも眠っていた。
はっと、頭を擡げてみると、頭は水晶のように透明な気がする。体を、小魚のようにピチピチと動かしてみたい。
「おおうっ、おれの上にはなにものもない。おれは鷲嶺を踏んでいる!」
鮮麗な朝陽が、彼と山頂を染めていた。彼の原始人のような太い両腕は空へ突ッ張っていた。そしてたしかにこの山頂を踏みしめているところのわが二つの足をじっと見た。
ふと気がついたのである。見ればその足の甲から、青い膿汁が一升もあふれ出ているではないか。それは、またこの清澄な天界に、異な人間のにおいと、噴っ切れた万鬱の香気とを放っていた。
冬かげろう
一
子等之館に起き臥ししている妙齢の巫女たちは、もちろんみな清女であった。幼いのは十三、四歳から大きいのは二十歳ごろの処女もいた。
白絹の小袖に緋の袴は、神楽をする時の正装であって、平常、ここの館で勉強したり掃除をしている時は、大口に似た木綿の袴を穿き、袂の短い着物を着て、朝のお奉仕がすむと、めいめいが一冊ずつの書をかかえて、禰宜の荒木田様の学問所へ、国語や和歌のお稽古にゆくことが日課であった。