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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
武蔵のやる芸ぐらい、俺に出来ない法はない。いや、今にあいつを尻目にかけて、出世してみせてやる。その時には、お甲にも黙って復讐できるのだ。見ていろここ十年ばかりに)
だが――と彼はふと思うのだった――十年経ったら、お通は幾歳になるだろうと。
武蔵や自分よりも、彼女は一ツ年下だ。すると今から十年経つうちには、もう三十を一つこえてしまう。
(それまで、お通が、独り身で待っているかしら?)
故郷のその後の消息は何も知らない又八だった。そう考えると、十年では遠すぎる、少なくもここ五、六年のうちだ。なんとしても身を立てて、故郷へ行き、お通に詫びて、お通を迎え取らなければならない。
「そうだ……五年か、六年のうちに」
西瓜を見ている眼に、やや光が出てきた。すると、巨きな石の向う側から、仲間の一人が、肱を乗せていった。
「おい又八、何をひとりでぶつぶついってるんだ。……オヤ、ばかに青い面して、げんなりしているじゃねえか。どうしたんだ、腐った西瓜でも喰らって、腹でも下痢したのか」
四
つけ元気に、又八はうすく笑った。だがすぐ、不快な眼まいがこみあげて来るらしく、生唾を吐いて顔を振った。