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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

――異議があるか」

ゆうべトラになった酔っぱらいが、洒落ていえば、今日は龍となって嘯くかのように、趣をかえて、激昂しているのだ。

その動機をたずねると、こうなのである。――今朝がた、彼らが特に朝風呂を命じて、宿酔の脂をながしていると、そこへ入浴って来た相客の者で、堺の町人というものが、きのう阿波から大坂へくる便船のうちでは、実におもしろいことがあったといって、例の小猿を携えている美少年のうわさを語り、祇園藤次が髷を切り落された由来に及んでは、手真似、顔つきまでして、

(なんでもその髷を切られたほうの侍は、京都の吉岡道場の高弟だっていっていたが、あんなのが高弟じゃ吉岡道場もざまはない)

ことおかしげに、湯に入っているうち喋舌って行った。

彼らの憤激はそれから始まったものである。怪しからぬ先輩と、祇園藤次をつかまえて詰問に及ぼうとすると、藤次は今朝早く、吉岡清十郎と何か話していたが、朝飯をたべるとすぐ、お甲とふたりで、先へ京都へ発ってしまったという。

いよいよもって、うわさは事実にちがいない。そういう腰抜けの先輩を追いかけるのは愚かである、追うならばどこの何者かわからないが、自分たちの手で、小猿を携えた前髪を捕まえ、存分に、吉岡道場の汚名をそそいでやろうじゃないか。