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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

五

「――異議があるか」

「勿論、ない」

「しからば――」

と、手筈をしめし合せ、そこの同勢は、袴の砂を払って立ち上がった。

五

住吉の浦は、眼のおよぶ限り、白薔薇をつないだような波である。冬とも思えない磯の香が陽に煙っている。

朱実は、白い脛を見せて、波に戯れながら何か拾って見ては捨てていた。

何事か起ったように、吉岡の門人たちが思い思いな方角へ向い、刀のこじりを刎ね上げて分れて行くのを眺めて、

「オヤ、何だろう」

朱実はまるい眼をしながら、波打ち際に立って見送っていた。

いちばん最後になった門人の一人は、彼女のすぐ側を駈けて来たので、

「何処へ行くのです」

声をかけると、

「オ、朱実か」

足を止めて――

「おまえも一緒になって捜さんか。ほかの者もみな手分けして、捜しに行ったんだ」

「何を捜しに行ったんです」

「小猿を携えている前髪の若い侍さ」

「その人がどうかしたのですか」

「抛っておいては、清十郎先生のお名まえにもかかわるのだ」

祇園藤次の飛んでもない置土産の一件を話して聞かすと、朱実は興もない口吻で、

「皆さんは、始終喧嘩ばかり捜しているんですね」

と、たしなめ顔にいう。