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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「何も喧嘩を好むわけじゃないが、そんな青二才を、黙って捨てておいては天下の兵法所たる京流吉岡の名折れになるじゃないか」
「なったっていいじゃありませんか」
「ばかいえ」
「男って、ずいぶんつまらないことばかり捜して、日を暮しているんですね」
「じゃあ、おまえは、さっきからそんなところで何を捜しているんだ」
「わたし――」
朱実は、足もとのきれいな砂へ、眼を落して、
「わたしは、貝殻を見つけているの」
「貝殻? ……それみろ、女の日の暮し方のほうが、なおくだらないじゃないか。貝殻など何も捜さなくっても、天の星ほど、こんなに落ちている」
「わたしの捜しているのは、そんなくだらない貝殻じゃありません。わすれ貝です」
「わすれ貝、そんな貝があるものか」
「ほかの浜にはないが、この住吉の浦にだけはあるんですって」
「ないよ」
「あるんですよ」……いい争って、朱実は、
「嘘だと思うならば証拠を見せてあげますからこっちへ来てごらんなさい」
と、ほど遠からぬ所の松並木の下へ、無理やりにその門人を引っぱって来て一つの碑を指した。
いとまあらば
ひろひに行かむ住吉の
きしに寄るてふ
恋わすれ貝
新勅撰集のうちにある古歌の一首がそれには刻んである。