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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

加茂の競べ馬に出したら、あれこそ第一でがなあろうに」

「ムム、月毛じゃの」

「何やら立て札があるわ」

「この飼料のおん豆を煎じて飲ますれば、夜泣き、歯ぎしりが止むとある。権叔父、おぬし飲むがええ」

「ばかをいわしゃれ」

笑いながら見廻して、

「おや、又八は」

「ほんに、又八はどこへ行ったぞいな」

「ヤア、ヤア、あれなる神楽の殿の下に足をやすめているわ」

「又よう。又ようっ――」

婆は手をあげて、

「そっちゃへ行くと、元の大鳥居の方へ出るのであろうが。――高燈籠のほうへ行くのじゃがな」

と呼ぶ。

又八は、のそりのそり歩いて来た。この婆とこの爺を連れにして、毎日こう歩いてばかりいるのは、彼としてかなりの我慢らしく見える。それが五日や十日の見物というならまだしも、宮本武蔵という敵と巡り会って討ち果すまでの長い旅かと思うと、なんとしても、憂鬱にならざるを得ない。

三人つながって歩いていても無益であるから、各※(二の字点、1-2-22)わかれて、自分は自分で武蔵の所在をさがすから――と提議してみたが、

(もうやがてすぐ正月、久しゅう母子一緒に屠蘇を酌まぬし、いつ何時、これがこの世の名残りとなろうも知れぬお互いの身、せめて、ことしの正月だけは、ともに過ごそうではないか)