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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
白い水けむりを浴びて、赤い袖裏や金糸の帯が光っている。あたかも平敦盛が駒を沈めて行くかのように見えるのだった。
「女あッ……! 女っ……。おういッ! ……」
やっと、間近まで追いついて、権叔父がこう呶鳴ったとたんに――そこから急に底が深くなっているのであろう、ガボと、異様な一声を水面に残して、女のすがたは不意に大きな波紋の下にかくれてしまった。
「やれ不心得者っ、やはり死ぬ気か」
ずぶずぶと、権叔父も同時に、全身まで沈みこんで行った。
岸では、隠居が、波打ち際に沿って横へ駈け廻っていた。
一抹の水けむりと共に、女の影も、権叔父のすがたも見えなくなると、
「あれっ、あれっ、誰ぞ、早く行かねば、間にあいはせぬっ。二人とも死んでしまうわッ」
と、まるで他人のせいみたいに喚いて、
「はよう、助けに行けっ、浜の者っ、浜の者っ」
と、転んだり駈けたり、また、手を振り廻したり、自分が溺れるかのように騒いでいた。
四
「心中か」
「まさか……」
と、救って来た漁師たちは、砂の上へ寝かした二つの体を見てわらった。
権叔父のからだは、慥乎と若い女の帯をつかんでいた。そのふたりとも、息はなかった。