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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
一日という短い生活のうちに、そういう矛盾の甚だしい二つの自己を息づかせながら、しかし当の清十郎は、それが必ずしもおかしくはないように、沈痛な眉と、慚愧の唇を結んでいた。
「……落ちついてくれ、朱実。おればかりじゃない、男とはたいがいこうしたものなのだ。……今におまえだって分ってくれる日がある。おれの愛があまりに烈し過ぎたのでおまえは驚いてしまったのだろうが」
こういう繰り言を、彼は、朱実へ対していうのか、自己をなぐさめるためにいうのか、纒綿とさっきから枕許に坐って呟いているのであった。
墨をながしたように部屋の中は陰惨としていた。朱実の白い手がばたんと時々夜具の外へ出る。夜具をかけてやるとまた、うるさそうにそれを払う。
「……きょうは何日?」
「え?」
「後……幾日で……お正月」
「もう七日ばかりじゃないか。正月までには癒るよ、元日までに、京都へ帰ろう」
清十郎が顔を寄せると、
「嫌あ――ッ」
突然、泣くように、顔の上の顔を平手で打って、
「あっちへ行けっ」
と、罵った。
狂わしい声が続けさまになおその唇から走るのだった。
「ばかっ、獣っ」
「…………」
「獣だ、おまえなんか」