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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

二

二

この炎天下の我慢と、粒々の辛苦をして、やっと写した城の見取図が、ものもいわず、いきなり肩越しに出て来た手のために、皺くちゃに掴み奪られようとするのを見ると、武者修行は、火薬の塊りが火を呼んだように、

「何するかッ」

満身で呶鳴った。

手頸をつかまえて立つと、工事目付は奪り上げた彼の写図帖を、奪り返されまいとして、宙へその手をさしあげつつ、

「見せろ」

「無礼なッ」

「役目だ」

「なんであろうが」

「見ては悪いものか」

「悪いっ。貴様などが見たってわかるもんじゃない」

「とにかく預る」

「いかん!」

帖の写図は、双方の手に裂かれて、半図ずつ握りしめた。

「曳ッ立てるぞ、素直にせぬと」

「どこへ」

「奉行所へ」

「貴様、役人か」

「然り」

「何番の。誰の」

「左様なこと、汝らが、訊かんでもいい。此方は、工事場見廻りの役、怪しいと認めたによって、取調べるのじゃ――誰様のおゆるしをうけて、お城の地勢や、御普請などを写し取ったか」

「おれは武者修行だ、後学のため諸国の地理や築城を見学しておる、なんでわるいか」

「さような口実でうろついておる敵の間者は、蠅や蟻ほど多いのじゃ。……とにかくこれは返せん、其方も一応取りただすによって、あっちまで来い」