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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「小童めが!」

勇気というよりはもう無自覚の忘恐がなす仕業である。この際、多言の必要はないのに、

「おもい知れっ」

叫びを重ねて一人は飛びかかって行った。振り下ろした刀はかなり深く入ったつもりであるのに、前髪の敵の胸へはまだ二尺ほども手前の空間を斬り下げていたのである。

当然、自信を持ちすぎたその刀の先は、カチッと石を打った。刀の持主はすでに自分から死の穴へ逆さに首を突っ込んで行ったかのような姿勢になり、鐺と足の裏を高く上げて、敵の前に身を曝してしまった。

だが、易々と斬り得る足もとの敗者を斬らずに前髪の美少年は、身をかわした機みに弾みを加えて、ぶうんと横側の敵へ当って来た。

「ぐわッ」

明らかな末期のさけびがまた一つそこで揚った。するともう二度と陣形を立て直す気力も失って、後の三名はわらわらとつながって逃げ出した。

逃げる姿へ、人間は最も殺伐な猛気がおこる。物干竿を両手に持って、

「それが吉岡の兵法かっ」

前髪は追いかけた。

「きたないぞ、返せっ」

罵りを浴びせかけながら、彼は足を止めなかった。

「待てっ、待てっ、わざわざ人を船から呼び上げておいて、捨てて逃げる侍がどこにあるかっ。