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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
四
「奪りやしないから、見せてごらんよ。――重そうだね。大きな刀だね」
「それごらん、すぐほしそうな眼をするくせに」
四
ばたばたと小走りに草履の音が後ろへ来ていた。先刻、子等之館から出て行った稚い巫女の一人で、
「お師匠さま、お師匠さま。あちらで、禰宜様が呼んでいらっしゃいますよ。何か、お頼みがあるんですって」
と、お通へ呼びかけ、お通が振向くとすぐにまた、元のほうへ走って行った。
城太郎は、何か、びくっとしたように、四辺の樹々を見まわした。
冬の樹洩れ陽は、さざ波のように、戦ぐ梢から大地へこぼれていた。城太郎はその光の斑の中に、じっと、何か幻想でも描くような眼をしていた。
「――城太さん、どうしたんです。何をきょろきょろ見まわしているの」
「……なんでもない」
さびしげに城太郎は指を噛んだ、そしてこういった。
「今、あっちへ行った娘が、いきなりお師匠様と呼んだろう。……だから、おいらは、自分のお師匠さまかと思ってさ――。どきっとしたんだよ」
「武蔵さまのこと?」
「あ、あ」
唖のように、城太郎が空虚な返辞をすると、お通はさなきだに悲しくなってしまって、途端に、嗚咽したいようなものが、眼とも鼻ともわからない感情の線をつき上げて来るのだった。