轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
――そんなこと、いい出してくれなければよいのに、と城太郎の無心にいったことばが辛くて恨めしくなってしまう。
一日として、武蔵をわすれ得ないことが、お通には苦しい重荷だった。なぜそんな重荷は捨ててしまわないのか――そして平和な郷で、よい女房になりよい子を生もうとしないのか――とあの無情な沢庵はいうが、お通の耳には、恋を知らない禅坊主を憐れむ心こそ起るが、抱きしめている今のものを、心から捨てたいなどとは夢にも思われないのである。
恋は、虫歯のように、どうにもならない傷みを持つ。ふとまぎれている間こそ、お通も何気なくしているが、思い出すと、矢もたてもなくなって、的がないまでも、諸国諸街道を足にまかせて捜し歩き、武蔵の胸へ顔を当てて泣きたい。
「……ああ」
お通は、黙って歩きだした。――何処に、何処に、何処に? ――およそ生きとし生ける者の数多な悩みのうちでも、焦れたくて、やるせなくて、どうにもならない悶えは、会えない人に会わんとする人間の焦躁であろう。
ポロリと、涙をこぼしながら、お通は自分の胸を抱きしめて、黙々と足を運んでいた。――その手とその胸との間には、汗くさい武者修行風呂敷と、柄糸の腐っているような重い大小がかかえられている。