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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
五
だがお通は、知らなかった。
うす汚いその汗のにおいが、武蔵の体の物であるなどとどうして考えられようか。重いという感じのほか、お通は持っていることさえうっかりしていた。心のすべてを武蔵のことに占められて。
「……お通さん」
城太郎は、彼女の後から済まない顔して従いて来た。禰宜の荒木田様の門の内へ、彼女のさびしそうな背が隠れかけると、たもとへ飛びついて、
「怒ったの? 怒ったの?」
「……いいえ、なにも」
「ごめん。――お通さん、ごめんね」
「城太郎さんのせいじゃありませんよ、またわたしの泣きたい虫が起ったんでしょう。わたしは、荒木田様の御用を伺って来ますから、おまえは、あちらへ戻って、一生懸命にお掃除をなさいね」
五
荒木田氏富は、自分の邸を学之舎と名づけて、学校に当てていた。そこに集まる生徒は、ここの可愛らしい巫女のみに限らない。神領三郡のさまざまな階級の子が四、五十人ほど通って来る。
氏富は、今の社会ではあまりはやらない学問をここで幼い者たちに教えていた。それは文化のたかいという都会地ほど軽んじられている古学であった。
ここの子女が、その学問を知ることは、この伊勢の森がある郷土としても、ゆかりがあるし、国総体の上からも、今のように、武家の盛大が、国体の盛大かのように見えて、地方のさびれかたが、国のさびれとは誰も