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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

八

「ム……そうか、疑わしい者ではあるまい。だが念のためじゃ、当人から一札取って渡してやるがよいぞ」

そういって、お通がさっきここへ抱えて来た大小と、汗くさい武者修行風呂敷とを、その雑掌の手へ持たせてやった。

八

笛の先生が急に旅立つと聞いて、子等之館の清女たちは、ひとしく寂しい顔をして、

「ほんと?」

「ほんと?」

お通の旅姿を取り巻き、

「もうここへは帰らないんですか」

と、姉に別れるように悲しんでいう。そこへ城太郎が、

「お通さん、支度出来たよ」

と裏の土塀の外で呶鳴る。

見れば、白丁を脱いで、いつもの裾の短い着物に、腰には木刀を横たえ、荒木田氏富から大事にといわれて、二重三重に包んだ例の絵巻物の入っている箱を風呂敷で背中へ斜めに背負いこんでいる。

「まあ、早いんですね」

お通が窓から答えると、

「早いさ。――お通さんはまだかい、女と歩くとお支度が長いからなあ」

そこの門から内へは、男と名のつく者は一歩も入れない規則なので、城太郎はしばしの間、陽なたぼっこをしながら、霞む神路山の方へ欠伸をしていた。

ちょっとの間でも、彼の溌剌とした神経は、すぐ退屈をおぼえるらしく、じっとしていられないらしい。