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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

「――お通さん、まだ?」

館の内では、

「今すぐに行きますよ」

そのお通も、すっかり支度はすんでいたのであるが、わずかふた月でも起臥をともにして、しかもよい姉様のように親しんでいた人を、旅に奪われるとなると、生徒の巫女たちは、一抹の哀愁にとらわれて、なかなかお通を離さないのである。

「――また参りますからね、皆さんもご機嫌よう」

果たして、もういちど来る日があるだろうか、お通は、嘘をついている気がする。

巫女たちのうちには、すすり泣く者さえあって、一人が、五十鈴川の神橋のたもとまで送って行こうというと、一も二もなく気が揃って、お通を囲みながら外へ出て来た。

「あれ?」

見ると、あんなに急いていた城太郎がいないのである。小さい唇へ手をかざして、巫女たちが、

「城太さあん」

「城太さあん」

お通は、彼の習性をよく知っているので、そう心配はせず、

「きっと焦れったがって、神橋のほうへ、独りで先に行ってしまったんでしょう」

「意地悪ッ子ね」

そして一人が彼女の顔をのぞき上げながら、

「あの子、お師匠さまの子?」

と、訊いた。

お通は笑えなかった。思わず真面目になって、

「何ですって、あの城太さんが私の子かというんですか。