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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
七
武蔵はふと、おかしいと思ったが、思索のまとまらないうちに、昏睡のもやが頭にかかっていた。――そして瞼を重くあわせると、大きな息を二つほどして、夜具の襟を眼元までかぶった、こんどは少し、寒気がするらしく。
燃え残っている炉の薪が、時折小さい焔を立てて、武蔵の額に明滅した、深い寝息がその次に聞える。
「…………」
白い顔が、その頃まで、そこと奥との境に佇んでいた。梅軒の女房であった。びた、びた、と筵へ粘りつく跫音が、忍びやかに良人のいる部屋へ帰って行った。
七
武蔵は夢をみていた。夢の切れ端みたいな同じ夢を何遍もみた。夢というほど纒まっている夢ではないから、幼少の頃の記憶が、何かの作用で、眠っている脳細胞の上へ虫みたいにムズムズ這い出し、神経の足の足痕が、燐色に光る文字を脳膜へ描いているかのような幻覚だった。
……とにかく、こういう子守唄を、彼は夢の中で聞いている。
ねんねしょうとて
ねる子はかわい
起きてなく子は
つらやな
つらやな
母なかせ
この子守唄は、この前ここへ立ち寄った時、良人の留守をまもって添乳していた梅軒の妻が唄っていたものであるのに、その伊勢訛りのある節がそのまま、美作の国吉野郷の、武蔵の生れた故郷で聞える。