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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
明滅する炉の光をうけて、クルクルと魔法の花みたいに廻った。
明らかな跫音が、家の外にも家の奥にも聞えた。武蔵の寝床をつつんで、忍びやかにそれは一つの囲みを作っていた。――やがて、暖簾のすそから、ぬっと、二つの眼が光った。膝をついて這って来る男は抜刀を持ち、一人は素槍を持って、そっと壁を撫でながら蒲団のすそのほうへ廻った。
「…………」
寝息を聞き澄ますように、ふたりの男は、ふくれている夜具を見ていた。するとまた、暖簾の蔭から、煙のように一人の者が出て来て突っ立っていた。宍戸梅軒である。左の手に鎖鎌を持ち、右の手に分銅をつかんでいた。
「…………」
「…………」
「…………」
眼と、眼と、眼と。
三人が機微な息をあわせると、まず頭のほうにいた者が、ぽんと枕を蹴とばした、すそのほうにいた男はすぐ土間へとび降りて、槍を蒲団へ向けた。
「起きろっ、武蔵」
梅軒は、分銅の鎖と拳を、後ろへ引いていった。
九
――だが、蒲団は答えなかった。
鎖鎌でつめ寄っても、槍をしごいても、呶鳴っても、蒲団はあくまで蒲団であった。――その中に寝ているはずの武蔵はもういなかったのである。