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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

……だが、今から四年前、あいつが十七歳の時に、おれの兄貴の辻風典馬でさえ、打ち殺された相手だと考えると――下手に手出しは出来ねえと考えたものだから」

「だが親方、ほんとに今夜泊ったあの武者修行が、四年前に、伊吹のもぐさ屋のお甲の家に匿まわれていた小僧でしょうか」

「死んだ兄貴の典馬のひき合わせだろうよ――おれも初手はそんな気はみじんも抱いていなかったのだ。一、二杯酒をのんでいるうちになにかの話から、野郎はまさか、おれが辻風典馬の弟で、野洲川野武士の辻風黄平だとは知らねえもんだから、関ヶ原の役へ出たことから、そのころはたけぞうと呼んでいたが今では宮本武蔵と名乗っているなどと、問わず語りにしゃべってしまった。……年頃も、面だましいも、兄貴を木剣で打ち殺した、あの時のたけぞうに相違ねえ」

「返す返す、惜しいことをしたなあ」

「この頃は、世間が穏やかになり過ぎたんで、たとえ兄貴の典馬が生きていても、おれ同様、住居や飯にも困って、百姓鍛冶に化けるか山賊にでもなるよりほか途はなかったろうが――名もねえ関ヶ原くずれの足軽小僧に、木剣でたたき殺された兄貴の死にざまは、思い出すたびに、こう胸の元でむらむらとするのだ」