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みやもとむさし

宮本武蔵

吉川 英治

04 火の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页

青空文庫

二

……人がたくさん歩き出すとあぶないから、今のうちに乗せておくれよ」

これでは早立ちしても道程は捗るまい。お通がうなずきもせぬうちに、城太郎はもう通り越した四軒茶屋のほうへ、大元気で駈け戻っていた。

二

四軒茶屋というのは字義どおり四軒の茶屋をさす名であるが、その四軒が古着屋のように軒をならべているわけではない。筆捨、沓掛などの山坂へかけて四つの休み茶屋があるところから、この辺を総称して、地名的にそう呼ぶのである。

「おじさんっ――」

そこへ立って城太郎、

「馬、出しとくれ」

と、呶鳴った。

戸を開けたばかりのことである。茶屋のおやじは、この元気者にしぶい眼を醒まして、

「なんじゃあ、でかい声を出しくさって」

「馬だよ。はやく馬を出しておくれよ。水口までいくらだい。安ければ、草津まで乗ってやってもいいぞ」

「汝れ、どこの子だ」

「人間の子だ」

「かみなりの子かと思うた」

「かみなりは、おじさんのことだろう」

「よく口をたたく子だの」

「馬出しとくれよ」

「あの馬を、駄ちん馬と見たのけ。あれは駄ちん馬ではねえだによって、おん貸し申すことはできねえ」

「おん借り申すことはできないのけ?」