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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
「岸柳どの」
そういうと、清十郎は何を思いだしたのか、突然、腰をあげていった。
「帰ろう。――どう考えても鷹狩などしている場合でない。きょうはもう年暮の二十九日、帰ろう、道場へ」
しかし小次郎のほうは、その焦躁を、また始まったといわないばかり冷笑して、
「折角、鷹をすえて来たのに、まだ山鳩一羽に、つぐみ二、三羽しか獲っていない。もすこし、山へ登ってみようじゃないか」
「よそう、気のすすまぬ時には、鷹も思うように飛ばぬものだ。……それよりは、道場へもどって、稽古だ、稽古だ」
独り語のようにいい捨てた語尾には、ふだんの清十郎とは違った熱があった。小次郎がいやなら、自分ひとりでも先へ帰りそうな様子であった。
六
「帰るなら一緒に帰る」
小次郎も、共に歩みだしたが、愉快ではない顔いろだった。
「清十郎どの、むりにおすすめして、悪かったな」
「なにを」
「きのうも、きょうも、鷹狩をすすめてあなたを連れ出したのは、この小次郎ですから」
「いや……ご好意は、よく分っている。……だが年暮ではあるし、貴公にも話した如く、宮本武蔵というものとの大事な試合も、目睫のまに近づいている場合ゆえ」