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みやもとむさし
宮本武蔵
吉川 英治
04 火の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,809 字 · 369 页
武蔵は、それを拾って左の手に持ち、右の手で、起きかけている婆の体を横ざまに抱きあげた。
「ええ、口惜しい」
亀のように、お杉は、武蔵の脇の下で泳ぎながらさけんだ。
「神もないか、仏もないか。みすみす敵へ一太刀つけながら……。ええ、どうしよう、武蔵、この上は、恥を掻かせずに、首を討て、さあ、婆の首を討て」
武蔵は、口を結んだきり、ただ黙々と大股に歩き出した。
絞り出すようなしゃがれ声で、その間、お杉婆はいいつづけている。
「こうなることも、武運じゃ、天命じゃ、神のお旨を思えば、なんの未練があろうぞ。――権叔父も旅で死に、婆も返り討ちになったと聞けば、あの又八も、奮い起って、きっと、仇を討とうという気になるだろう。婆の死は、決して犬死にはならぬ。かえって、あの子のためにはよい薬じゃ。武蔵っ、はよう婆の命を奪れ。……どこへ行くのじゃ? ……死に恥掻かす気か、はよう首を討てっ」
六
武蔵は耳もかさなかった。
婆のからだを横に抱えて、五条大橋のそばまで来ると、
(どこへ置いたものか)
と、お杉の身の処置を考えるように、辺りを眺め廻していたが、
「そうだ……」
河原へ下りて、そこの橋杭に繋いであった河舟の底へ、お杉のからだをそっと卸し、